コスプレと著作権

 好きなキャラクターのコスプレ衣装(本文では、純粋な衣服だけでなくウイッグや小道具なども含めて「衣装」とします。)を製作し、衣装を纏った姿を撮影して写真をインターネットにアップロードする。
 この一連の行為には、著作権法違反の可能性が潜んでいます。

 すなわち、コスプレ衣装の製作行為が「複製」(著作権法21条)や「翻案」(著作権法27条)に該当する可能性があり、また、写真をインターネット上で公開する行為が「公衆送信」(著作権法23条)に該当する可能性があります。
(なお、模倣のレベルが元のキャラクターの特徴を感得できない程度に低ければ、「複製」にも「翻案」にも該当しません。しかし、通常、キャラクターのコスプレとは、元のキャラクターを想起させることに意味があるものと考えられますので、上記のような場合は想定しないこととします。)

 この問題のポイントは、対象となるキャラクターの(衣装を含む)デザインが「著作物」といえるかというところです。
 それが「著作物」といえなければ、いくら真似しようがアップロードしようが、著作権法上は何の問題もありません。

 著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものをいいます。
 つまり、著作物というためには創作性が必要になります。誰でも考えつくようなありふれた表現は、「創作的」ではないため、著作物性が認められません。

 したがって、たとえば、コスプレの対象となる元のキャラクターが、“白シャツ+黒パンツ”や“定型的な無地のスーツ”といったありふれた格好で、髪型その他の部分にも特筆すべき特徴がないような場合、当該キャラクターデザインは「創作的」といえず、「著作物」といえない可能性があります(東京地判平成20年7月4日判決、いわゆる博士事件)。
 逆に、衣装も含めたキャラクターデザインに(一部でも)創作性が認められるのであれば、そのキャラクターのコスプレ衣装の製作は、著作物の「複製」又は「翻案」に該当します。また同衣装の写真をインターネットで公開する行為は「公衆送信」に該当します。
 よって、これらの行為を著作権者に無断で行う場合は、著作権法違反となる可能性があります。

     ※ なお、コスプレ衣装について、衣服等は応用美術(実用品)であるから意匠法で保護されるべきものであり、
       著作権法上の問題にならない(著作物性が認められない)と論じる方がいらっしゃいます。
       しかし、コスプレ衣装は、何ら実用性のない“キャラクターデザイン”の模倣が問題となるもので、実用品である
       “衣服”の模倣が問題となる応用美術の問題とは本質的に異なるため、この論は適切でないと考えます。

 もっとも、上記のような場合であっても、著作権法30条以下の制限規定に該当すれば、著作権法違反になりません。
 代表的なものが、私的使用のための複製(著作権法30条)です。
 すなわち、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするとき」は、原則としてコスプレ衣装の製作も認められます。
 ただし、「家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」は比較的狭く解釈されており、公衆が閲覧できるようなイベントでの使用やインターネットでの公開を目的とする場合はこれに含まれませんので、注意が必要です。
 
 世間一般に、コスプレはグレーゾーンなどと言われているようですが、実際、法的なグレーゾーンなど存在するはずがなく、ただ、著作権者が当該著作権法違反の事実を認識していないか、又は、認識しながらも広告効果や文化振興などの理由で黙認しているにすぎません。

 クールジャパンやポップカルチャーなどのブームに乗って、コスプレを営利目的で利用することが増えてきています。このような営利目的の場合にまで著作権者が黙認するとは限らず、いつ著作権者から著作権侵害の警告書が送られてくるかわかりません。すくなくとも営利目的でコスプレを利用する場合は、必ず、事前に著作権法違反の有無をチェックし、必要なものについては権利関係の処理をしておくべきです。

                                                        弁護士 白井一成

2017/08/31| コラム