試用期間としての有期雇用

 従業員を採用する際、当初の数週間~数か月間を試用期間と定めることが一般的となっています。
 試用期間とは、読んで字の如く「試しに用いる」期間を意味するので、会社としては、“試しに用いてみて適正がなかったら本採用しなければいいじゃないか”などと軽く考えがちです(そして実際、そのような考えで試用期間を導入している会社が非常に多いです。)が、本採用拒否はそんなに甘いものではありません。

 現在の労働法令及び判例上は、労働契約締結後の試用期間は、あくまでも労働契約関係の下にあるから、試用期間後の会社からの一方的な本採用拒否は「解雇」に相当すると評価されます。
 つまり、よほどの事情がないと本採用拒否はできません。面接の延長の感覚で“試しに用いてみて適正がなかったら…”という考えは通用しないのです。

 とはいえ、数回の面接だけでは職場環境への順応性や業務の適正まで把握できるわけがない。
 どうすればいいのか。

 1つの有用な方法として、有期労働契約を用いるという方法があります。
 たとえば3か月間だけ「試しに用いる」ことを考えた場合、従業員との間で、3か月間の有期労働契約を締結すれば良いのです。
 有期労働契約であれば、契約期間が満了すれば契約は自動的に終了します。つまり、本採用拒否や解雇などという会社からのアクションを必要とせず、ほおっておけば労働契約が終了し(てしまい)ます。
 したがって、契約期間満了後もその従業員を必要とするのであれば、従業員との間で新たに労働契約締結を締結する必要があります。
 この制度をうまく用いることができれば、本採用拒否の違法性に関するリスクは減少するでしょう。

 ただし、試用期間として有期労働契約を用いる場合は、次の最高裁判例に注意が必要です。
「使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である」
(最高裁第三小法廷平成2年6月5日判決)

 つまり、試用期間として有期労働契約を用いる場合は、有期労働契約を締結する際の契約書に、契約期間の満了をもって当該労働契約は当然に終了するということを明記しておく必要があります(「当然に終了する」とは、会社・従業員どちら側からのアクションも必要なく、という意味です。)。さらに、期間満了後の採用の際には、きちんと新たに契約書を作成するなどして、試用期間としての有期労働契約と採用後の労働契約との一体性を断つ必要があるでしょう。
 これらを行わない場合は、形式上は有期労働契約であっても、労働契約締結後の試用期間と評価され、期間満了後も労働契約は存続するものという前提で本採用拒否は「解雇」と評価される可能性があります。

 試用期間として有期労働契約を用いるというやり方は、ハローワークのトライアル雇用制度などに応用されています。
 有期労働契約を締結する際の契約書の記載内容に工夫が必要であるなど、いくつか気を付けるべき点があるため、専門家のアドバイスを受けながら行う方が良いですが、これをうまく使いこなすことができれば、試用期間として非常に有用な方法だと思います。

                                                        弁護士 白井一成

2017/10/03| コラム