フランク三浦事件にみるパロディ商品と知的財産

 先日、フランクミュラーVSフランク三浦の知財高裁判決が確定しました。商標登録に関する無効審判の審決取消訴訟で、フランク三浦側の勝訴(つまりフランク三浦の商標登録が有効)で終わりました。
 商標がらみでは、その少し前にも、鳥貴族VS鳥二郎の事件で、鳥貴族側の異議申立が認められず、鳥二郎の商標登録が有効とされたことが大きなニュースとなりました。
 これらの結論は様々なメディアが取り上げ、様々な意見があがりました。個人的な感覚では、フランク三浦の事件では賛否両論、鳥二郎の事件では否定的な意見が多かったような気がします。
 もっとも、これらの結論は、少し商標について理解を深めていれば、さほど不思議なものではありません。

 まず、ルールとして、他人が登録した商標と同一又は類似の商標を新たに登録することができません。
 そこで、フランク三浦事件では、先に登録されていた「フランクミュラー」という商標と、後から登録しようとした「フランク三浦」という商標が類似するかどうか、という点が問題になりました。

 さてここで、さきほどから商標、商標と言っていますが、商標とは何でしょうか。商標法における「商標」の定義は以下のとおりです(商標法2条1項)。

     人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩またはこれらの結合、
    音その他政令で定めるものであって、次に掲げるものをいう。
      ① 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの。
      ② 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの。

 つまり、「フランクミュラー」商標と「フランク三浦」商標が類似するかどうかというのは、両者の「文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩またはこれらの結合」を比較して、両者が類似するかどうかという問題なのです。
 そこでは、フランク三浦がフランクミュラーの時計の形を模したパロディ時計を販売しているかどうかといった事情は、ほとんど関係がありません(全く無関係というわけでもありませんが。)。

 そして、商標が類似するかどうかは、称呼(呼び名)、外観(見た目)、観念(イメージ)を複合的にみて、需要者(利用者、購入者)が混同するか否か、で判断されます。
 
 さて、以上の予備知識をもって、「フランクミュラー」商標と「フランク三浦」商標を比較してみましょう。
 まず称呼(呼び名)です。両商標を声に出してみれば明らかですが、呼び名は似ているといえます。この点、知財高裁も、称呼は類似すると認定しています。
 次に外観(見た目)です。
「フランクミュラー」と「フランク三浦」
 一見したところ、「フランク」は完全に共通しますが、その後が全然違います。この2つの外観(見た目)を混同する人はほとんどいないと思います。
 最後に観念(イメージ)です。多くの人は、「フランクミュラー」という文字列を見て、外国の著名ブランドをイメージすると思いますが、単純に「フランク三浦」という文字列を見て、同じイメージを抱く人はほとんどいないと思います。むしろ、ハーフの方の人名とか、芸能人の芸名とか、そのようなイメージを抱く人が多いのではないでしょうか。

 このように見たときに、「フランクミュラー」商標と「フランク三浦」商標とを比較して、需要者(利用者、購入者)が両者を混同する可能性が高いと思いますか。裁判所が、両商標は類似しないと判断したことがそれほど不思議ではないような気がしてきませんか。

 「鳥貴族」商標と「鳥二郎」商標もこれと同じです。こちらは裁判所の判断ではなく特許庁の判断ですが、両商標は類似しないと判断されました。

 では、なぜ多くの人が、これらの結論にひっかかるのか。
 それは、前述したように、フランク三浦がフランクミュラーの時計の形を模したパロディ時計を販売しているからであり、鳥二郎が鳥貴族の店舗やメニューを模したパロディ戦略を進めているからです。フリーライド(ただ乗り)じゃないか、ということです。

 しかしこの点を商標法上の問題で追及することは困難です。

 フリーライド(ただ乗り)の問題を含めて是非を問うのであれば、商標法違反で攻めるのではなく、不正競争防止法違反で攻めるべきなのです。

 フランクミュラー側が今後、不正競争防止法違反でフランク三浦側を提訴するかどうかはわかりません。しかし、すでに世間一般には「フランク三浦が認められた」「フランクミュラーが負けた」というイメージが定着してしまっており、フランクミュラー側としてはなかなか動きにくい状況なのではないでしょうか。
 はじめに商標法違反で攻めてしまったために、このような大きなトピックを作ってしまうことになりました。本来であれば、商標法違反の前に、より勝算の高い不正競争防止法に基づく請求を行って、きちんと白黒をつけておくべき事案であったかと思います。
 
 知的財産事件においても、初動がとても大事だという、大変教訓になる事件です。知的財産事件は、きちんと知的財産事件を理解している弁護士に依頼することが何よりも肝要です。

                                                        弁護士 白井一成

2017/03/15| コラム