写真と肖像権(?)

 今の時代、ツイッター、フェイスブック、インスタグラムなど、SNSに気軽に投稿した写真は全世界に発信され、誰しもがアクセス可能な状態に置かれます。
 多くの人が、他人に、自分が写りこんでいる写真を無断でSNSにアップロードされて公表された、という経験があると思います。
 このように、他人が写りこんだ写真を、承諾なく、自由に公表することは許されるのでしょうか。

 写真の著作権は撮影者にあり、著作権者は著作物を公表する権利を有します。そのため、写真を公表することも著作権者(つまり撮影者)の自由ではないか、という話が出てきます。
 他方で、無断で公表する行為は被写体の肖像権侵害ではないか、という話もあります。
 一体、どちらが正しいのでしょうか。

    ※被写体が著名人の場合はパブリシティ権の問題もありますが、今回は非著名人のケースを想定しているため、
     パブリシティ権については割愛します。
 
 結論を言えば、著作権者であれば何をしても良いというわけではなく、他人の権利侵害となる態様での権利行使は制限を受けます。
 では、どのような場合が「他人の権利侵害」になるのでしょうか。
 写真のケースでは、「撮影」の段階と「公表」の段階と、2つの段階で問題になり得ます。

 まず「撮影」の段階です。
 この点、最高裁判所は「人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁参照)。もっとも、人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって、ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。」と判示しています(最高裁平成17年11月10日第一小法廷判決民集59巻9号2428頁)。
 つまり、無断で撮影することは他人の権利侵害となるが、色々な要素を考慮して正当な理由が認められる場合には、無断撮影が許される、ということですね。
(なお、判決文は「被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべき」としているので、証明責任の所在は、原則どおり、被撮影者側としていることに注意が必要です。)

 次に「公表」の段階です。
 この点、最高裁判所は「人は、自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり、人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合には、その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は、被撮影者の上記人格的利益を侵害するものとして、違法性を有するものというべきである。」と判示しています(最高裁平成17年11月10日第一小法廷判決民集59巻9号2428頁)。
 この判決は、被写体に無断で撮影した写真を、被写体に無断で公表したケースに関する判断であり、「撮影」の段階で違法であれば「公表」の段階でも違法になることは当然予想できるところだと思います。
 これが、被写体の承諾を得て撮影された写真を、被写体に無断で公表する場合(純粋に公表だけが問題になるケース)にも同様にあてはまるのかは不明ですが、上記判決文の前半部分の言い回しや同判決の調査官解説の記述にかんがみると、「みだりに公表されない人格的利益」も一般的に認められるものと考えられます。したがって、公表についても、撮影のときと同様、正当な理由がない限り無断公表は許されないことになります(証明責任の所在に注意)。

 では具体的にどのような場合に正当な理由が認められるのでしょうか。
 こればかりは個別判断になりますが、判断における大きなポイントとしては、①公の場での容ぼうを撮影したものか、②撮影や公表の必要性が高いかどうか、③その効果(「差し止め」なのか「損害賠償」なのか)等が挙げられます。
 つまり、①もともと不特定多数の耳目に晒される状態にあった被写体の容ぼうを撮影したり公表したとしてもその不利益は小さいと思いますし、②撮影や公表の社会的必要性が高ければ、撮影や公表について優越的な利益が認められますし、③差し止めを求める場合は表現の自由に対する直接の制約になりますので、損害賠償を求める場合より、基準は厳しいものになると思います。

 なお、この種の問題で「肖像権の侵害」という言葉を耳にしますが(冒頭でもあえてそう書きましたが)、現時点で、日本の法律上、「肖像権」という名の権利は存在せず、最高裁判所も「肖像権」という名の権利を認めていません。
 かつて日本に存在した写真条例、写真版権条例及び旧著作権法において、「写真肖像」に関する権利が定められていましたが、昭和46年制定の現行著作権法ではこれが削除されました。(ちなみに、旧著作権法の規定の内容は、概要、写真肖像の著作権は撮影者に帰属するが、依頼されて撮影した場合はその写真肖像の著作権は依頼者に帰属する、というものでした。)
 なので、この種の問題における「肖像権侵害」という用語は、すくなくとも法律および最高裁判例上は不正確ですので、注意が必要です。

                                                        弁護士 白井一成

2017/04/10| コラム