事業承継

 会社を興し、頑張って運営してきたものの、そろそろ引退のことも考えざるを得なくなり、事業の承継のことを考えなければならないが、どうすればよいのかわからない。
 中小企業の後継者問題。最近、よくご相談いただく案件です。
 このような案件では、大きく、①後継者が決まっているがどのように承継させればよいかわからない、というパターンと、②後継者が決まっておらず、そもそも何をどうすればよいかわからない、というパターンとに分かれます。

 ①の後継者が決まっている場合については、承継のタイミングがポイントになります。すなわち、自分の生前に承継させるのか、死後に承継させるのか。
 生前に承継させるのであれば、株式譲渡の問題になり、株式の譲渡承認手続や株式価値の評価方法が問題となります。閉鎖会社の株式価値の評価方法には、大きく分けて純資産方式(貸借対照表の純資産の部の評価額に着目して評価する方法)、収益還元方式(会社の収益力に着目して評価する方法)、比較方式(株式市場における他社との比較により評価する方法)などがあります。
 株式譲渡の場合、価格は当事者間で自由に設定することができますが、客観的な価額からかけ離れた金額にしてしまうと、後で税務署から贈与とみなされ、贈与税などが課されてしまう可能性もあるため、株式価格の設定には注意が必要です。
 他方、死後に承継させるのであれば、相続の問題になり、遺言作成における遺留分権利者等との調整が問題となります。
 自分が特定の後継者に株式を相続させたいと考えて遺言を作成しても、相続人の中に遺留分権利者がいる場合、遺言の書き方次第では、自分の意思を実現させることができない可能性があります。遺留分権利者に横槍を入れさせないためにも、きちんとした遺言を作成する必要があります。

 ②の後継者が決まっていないパターンについては、事業承継を前提とするのであればM&Aなどを検討することになり、事業の廃止を前提とするのであれば会社清算手続が問題となります。
 M&A案件においては、売却側として、すこしでも会社価値を高く評価してもらう必要があります。また、個人として、会社売却後の地位の保証や退職金の確保など、交渉で勝ち取る必要のある事項が多々あります。
 会社清算の場合は、会社のすべての資産を換価してすべての債務を弁済し、残余金を株主に分配する、という手続が必要になります。法務局への書類提出や官報公告なども必要です。

 以上述べたところは、事業承継における数ある法的問題の中から代表的なものをいくつか挙げたにすぎません。どのような方策をとるにせよ、後継者への承継の場面において、法的問題に直面することは避けられません。そしてそこでの選択を誤ると、うまく事業を承継させることができなくなります。
 自分の会社を守り、存続させるためにも、事業承継の場面こそ、慎重に手続を進める必要があります。

                                                        弁護士 白井一成

2017/02/22| コラム