2019年4月27日~5月6日における休業について
2019年4月27日~5月6日における休業について
2019年4月27日~4月30日、5月3日~5月6日については休業日とさせていただき、5月1日(水)及び5月2日(木)並びに5月7日(火)以降は通常どおり業務を行います。
期間中、ご不便をおかけしますが、何卒ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。
渡辺橋法律事務所 一同
働き方改革
新元号案の発表に湧いた平成31年4月1日に、働き方改革関連法の一部が施行されました。
今回施行分の主な内容は以下のとおりです。
① 三六協定による時間外労働時間の上限の法定化
② フレックスタイム制の清算期間の延長
③ 月60時間を超える法定時間外労働の割増賃金に関する中小企業の猶予の廃止
④ 年次有給休暇の取得時季指定の義務化
⑤ 高度プロフェッショナル制度の創設
⑥ 勤務間インターバルなど労働時間等設定改善法の改正
この中で、多くの企業にとって重要なのが①③④でしょう。
②はフレックスタイム制を採用している企業にとっては重要であり、⑤は高度プロフェッショナル制度に合致する従業員を抱える企業にとっては重要ですが、それほど多くの企業に影響があるものとは考えられませんので、本稿では詳しい話は割愛します。
また⑥については、現状、努力義務にとどまっていますので、②⑤と同じく本稿では詳述しません。
1.三六協定による時間外労働時間の上限の法定化
企業が従業員に対して時間外労働を命じるにあたって、いわゆる三六協定が必要なことは今さら言うまでもありませんが、三六協定を締結したからといって、無制限に時間外労働を命じられるわけではありません。
これまでも三六協定下における時間外労働時間の上限が設定されていましたが、労働基準法などの法律で決められていたわけではなく、厚生労働省の告示によって決められており、そのため罰則も設けられていませんでした。
しかし今回の改正により、一部の事業(建設事業、自動車運転業務、医師など)を除いて、時間外労働時間の上限が、労働基準法36条4項において以下のとおり明示されました。
・1月について 時間外労働45時間以内
・1年について 時間外労働360時間以内
さらに、「当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合」の特別条項の上限についても、以下のとおり定められています(労基法36条5項)。
・1月について 時間外労働+休日労働 100時間未満
・1年について 時間外労働 720時間以内
そして、特別条項が妥当する場合を含め、どのような場合であっても、法定時間外労働については、必ず、以下の上限を遵守しなければならない旨が定められ、これに違反した場合の罰則も新たに設けられました(労基法36条6項)。
● 1月について時間外労働+休日労働100時間未満
● 時間外労働+休日労働について、2か月平均、3か月平均、4か月平均、5か月平均、6か月平均の全てが1月あたり80時間以内
(※筆者注:たとえば、ある月の時間外労働+休日労働が90時間の場合、翌月は70時間以内に抑えなければならない)
これらにおいて注意が必要なのが、「時間外労働時間」のみで計算する場合と「時間外労働時間+休日労働時間」で計算する場合があること、さらに、「○時間以内」の場合と「○時間未満」の場合があることの2点です。
労務管理という観点から見れば非常にややこしい規定ですが、法律で明確に決まっている以上、厳格に遵守する必要があります。
なお、これらの規定について、中小企業の場合は1年間の猶予措置があり、2020年4月1日からの適用となりますが、1年などあっという間ですので、今から労務管理体制をしっかり整備し直すべきでしょう。
2.月60時間を超える法定時間外労働の割増賃金に関する中小企業の猶予の廃止
平成22年の労働基準法改正により、月60時間を超える法定時間外労働の場合の割増率が25%から50%に引き上げられました。
しかしこれについては、ただちに中小企業には適用されず、長らく猶予期間が設けられてきました。
今回の改正によって、その猶予措置が廃止されることが決まり、あらゆる企業において、月60時間を超える時間外労働に従事させた場合の割増率が50%となります。
もっとも、今回の廃止によってすぐに割合が変わるわけではなく、2023年4月1日から割増率が50%となります。
そのため、直ちに大きな問題となることはありませんが、長時間の法定時間外労働が恒常化している企業は、経費節減という観点からも時間外労働の削減を迫られることになります。
3.年次有給休暇の取得時季指定
有給取得率の低さが問題となって久しいですが、いよいよ労働基準法によって、企業側による年次有給休暇の指定が、罰則付きで義務付けられることとなりました(労基法39条7項)。
年間10日以上の年次有給休暇を付与される労働者のみが対象ですが、企業は、当該労働者を、所定休日とは別に、年間5日は必ず休ませなければなりません。
従業員が任意に年間5日以上の有給休暇を取得するのであれば、企業として特に何もする必要はないのですが、5日以上有給休暇を取得しない従業員については、企業として、時季を指定して、年間5日となるまで、強制的に有給休暇をとらせなければなりません。
これも労務管理という観点から見れば、対象となる従業員一人一人の有給休暇取得状況を逐一チェックし、未取得が見込まれる場合、どのタイミングでどの日を有給休暇として時季指定するかなど、処理しなければならないことが非常に多くなります。
この最低5日間の有給休暇付与は、計画年休の付与によってもクリアできますので(労基法39条8項)、労務管理の手間の節減のために、これを機会に計画年休制度を利用する企業が増える可能性が高いと思われます。
このように、今回の働き方改革によって、大企業はもちろん、相当数の従業員を抱える中小企業においても、労務管理が複雑化し、より専門性が高まっています。
労務管理体制がまだ整備されていない企業においても、今回の改正を機に、一度体制を見直してみられてはいかがでしょうか。
弁護士 白井一成
update : 2019/04/04 | コラム相続法が変わります
法律の世界では、平成32年4月1日から民法が大きく変わるとか、そもそも平成は31年で終わるとか(裁判では西暦表記ではなく元号表記なので、割と大きな出来事です。)、色々と大きな変化がトピックとなっていますが、実は密かに、2019年から相続法が変わります。
これまでも、非嫡出子の法定相続分の見直しなど、世相を受けて、たびたびマイナーチェンジしてきた相続法ですが、今回の変更は、実務的に大きな影響をもたらしそうです。
というのも、変更に以下の内容が含まれるからです。
① 配偶者居住権の創設(2020年4月1日~)
② 預貯金仮払請求権の創設(2019年7月1日~)
③ 自筆証書遺言の一部様式緩和(2019年1月13日~)
④ 自筆証書遺言の保管制度の創設(2020年7月10日~)
⑤ 特別寄与料の創設(2019年7月1日~)
①②⑤は現在によく問題になるところですし、③④は自筆証書遺言を検討されている方にとってはとても大事な話です。
上記のほかにも、遺留分制度に変更が加えられるなど、実は、とても大切なルールの変更点がいくつもあるのですが、とりあえず“プロでなくとも知っておくべきポイント”を挙げさせていただきました。
以下、簡単に見ていきます。
1.配偶者居住権の創設
「配偶者居住権」とは、読んで字の如く、被相続人(亡くなった方を言います。)の配偶者が建物に居住し続ける権利です。遺言で設定することもできますし、遺産分割協議において設定することもできます。
相続開始時に居住していなければならないとか、被相続人の単独所有でなければならないなど、一定の条件はありますが、終身無償で居住できるというのは大きなポイントです。
これまでは、遺言を作成する際などにおいて、本当は不動産を配偶者以外の者(子ども等)に取得させたいという意思がありながら、自分亡き後の配偶者の住居を案じて、結局、自宅不動産を配偶者に取得させる(そのため預貯金などの他の財産の取り分が減る)ということがありました。しかし今後は、このようなケースにおいても、自宅不動産を配偶者以外の者(子ども等)に取得させつつ、配偶者には配偶者居住権を取得させることで、配偶者の住居を確保できることになります。
2.預貯金仮払請求権の創設
これまで金融機関は、被相続人の死亡後、同人名義の預貯金(つまり遺産の一部)について、(遺言がない限り)相続人全員の同意がないと払い戻しに応じませんでした。
これは、葬儀費用として被相続人の預貯金をアテにしていたときによく問題となります。
しかし2019年7月1日からは、一定割合に限り、相続人が単独で払い戻しを請求できるようになります(ただし150万円が上限)。
なお、葬儀費用についてよく誤解されていますが、葬儀費用は、原則として「喪主の単独負担」であり、被相続人の遺産から当然に支出することはできません。相続人全員で分担して負担させるためには、各負担者の同意が必要であることに注意してください。この点は今回の変更でも変わりません。
今回の変更点は、あくまでも、自分の相続分の預貯金を、一定の範囲に限り、他の相続人の同意なく引き出すことができるということに尽きます。
3.自筆証書遺言の一部様式緩和
自筆証書遺言に財産目録を付す場合、その目録については、一定の要件を満たす限り、自書の必要がなくなります。自筆証書遺言は形式が厳格に定められた遺言ですので、形式に関する変更は大きな変更といえます。
4.自筆証書遺言の保管制度の創設
これまで、自筆証書遺言を作成した場合、保管場所に困る方が大勢いらっしゃいました。
誰にも預けられず、また、遺言の存在や保管場所すら誰にも告げられないような場合は、自分で保管するしかなくなります。そうすると、いざ相続が開始したとき、誰も遺言書の存在を知らないまま相続手続が進んでしまい、遺言者の意思が全く反映されない結果となって、遺言を作成した意味がなくなってしまう可能性があります。また、紛失のリスクもあります。
このような事態を避けるためにも、遺言を法務局に預けたうえで、あらかじめ相続人に対し、「自分の遺言は法務局に預けてある」と告げておけば、破棄や偽造などの心配もなく相続人に遺言の存在を認識させることができるようになり、自分の意思が反映された相続を実現させることができるようになるでしょう。
また、相続人側としても、相続人から遺言の有無を聞かされていない場合でも、法務局に問い合わせることで遺言の有無を確認できるようになるでしょう。
5.特別寄与料の創設
被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした親族は、相続人に対して特別寄与料の支払を請求することができるようになります。
これまでも、「寄与分」という制度はありましたが、これは、主体が相続人に限られていました。簡単に言えば、自分の配偶者の親(義親)に対していくら貢献しても、「寄与あり」とはいえませんでした。
今回、新たに創設される特別寄与料の制度は、この「寄与分」における主体を、相続人以外の一定の範囲の親族にまで広げることを主目的とするものです。
権利行使の方法が、相続人に対する直接請求とされていますので、該当するケースが多いことも相俟って、運用のされ方次第では、実務的に最も影響の大きい変更点ではないかと思います。
弁護士 白井一成
update : 2018/12/28 | コラム冬季休業のお知らせ
誠に勝手ながら、平成30年12月31日(月)から平成31年1月4日(金)までを冬季休業日とさせていただきます。
期間中、ご不便をおかけしますが、何卒ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。
渡辺橋法律事務所 一同
update : 2018/12/20 | お知らせ夏季休業のお知らせ
誠に勝手ながら、平成30年8月13日(月)から8月16日(木)までを夏季休業日とさせていただきます。
期間中、ご不便をおかけしますが、何卒ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。
渡辺橋法律事務所 一同
update : 2018/07/23 | お知らせドローンに関する法規制
先ごろから、ドローンを用いた山岳遭難者の捜索や海難救助に関するニュースを耳にするようになりました。
ドローンビジネスを検討している企業はもちろん、いまでは一個人でも簡単にドローンを手に入れることができる時代であり、ドローン飛行に関する法規制について興味・関心がある方が増えていると思います。
まず、屋外でドローンを飛ばすのに運転免許のような資格は必要ありません。
但し、以下で述べるとおり、ドローン飛行には様々な規制があり、一定の空域での飛行や特定の方法で飛行させるには許可や承認が必要になります。そのような許可や承認を申請する際、自分に一定の飛行技能や経験があることを証するため、技能資格を有していることを示すことで、許可や承認が得られやすくなる可能性はあります。
そしてドローン飛行の規制についてですが、大きく「法律」と「条例」の2つによって規制されます。
このうち「条例」は、各地方公共団体がそれぞれ地域の実情に応じて定めるもので、内容は地方公共団体によって異なります。
本稿では「法律」による規制について簡単にご説明します。
ドローン飛行を規制する主な法律として、以下のものがあります
(1)航空法
(2)国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等及び原子力事業所の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律(通称:小型無人機等飛行禁止法)
航空法は、“航空機の航行や人の安全を確保する”ことが目的であり、その観点からドローン飛行に規制がかけられています。
全てのドローンが規制対象となるのではなく、航空法の「無人航空機」に該当するものが規制対象となります。
「無人航空機」とは、とても簡単に言えば、本体重量とバッテリー重量の合計が200g以上のドローンのことです。
ちなみに昔からあるラジコン飛行機やラジコンヘリも200g以上であれば「無人航空機」です。
航空法上、「無人航空機」は以下の空域を飛行することが制限されています。
・空港周辺
・人又は家屋の密集地(国勢調査の人口集中地区)の上空
・地表又は水面から150m以上の空域
裏を返せば、空港周辺でなく人や家屋の密集地でないところで地表や水面から150m未満の範囲であれば、航空法上の制限はありません。
もっとも、最後の人又は家屋の密集地というのが曲者で、いわゆる大都市は漏れなく飛行制限区域になります。自己所有地内での飛行であっても、その土地が密集地にあれば、ドローン飛行は制限されます。
その土地が「人口集中地区」に含まれるかどうかは、国土地理院のサイトなどで確認することができます。
また上記の範囲内であっても、航空法上、「無人航空機」の飛行には以下の制限が課されています。
・日中に飛行させる
・目視範囲内で常時監視して飛行させる
・人、建物、車両などと、直線距離で30m以上の距離を保って飛行させる
・祭礼縁日など多数の人が集まる催し場所の上空で飛行させない
・危険物を輸送しない
・物を投下しない
すべて、航空機の航行や人の安全という観点から定められた規制です。
これとは異なり、“国の中枢機能や重要施設、公共の安全を確保する”という観点から定められたのが、小型無人機等飛行禁止法です。上に記載した、法律の正式名称を読んでもらえればその趣旨は明らかかと思います。
ちなみに航空法は国土交通省の管轄であり、小型無人機等飛行禁止法は警察庁の管轄です。
この法整備のきっかけは2015年の首相官邸ドローン落下事件と言われています。
小型無人機等飛行禁止法の規制対象は「小型無人機」で、簡単に言えばドローンのことです。航空法と違い、重量要件がありません。200g未満のドローンも対象です。
そして小型無人機は、「対象施設周辺地域」上空での飛行が制限されます。「周辺」とはおおむね周囲300メートルです。
主な対象施設は以下のとおりです。詳しくは、警察庁のサイトなどに掲載されています。
・国会議事堂
・首相官邸
・危機管理行政機関の庁舎
・最高裁判所
・皇居、御所
・政党事務所
・外国公館
・原子力発電所
以上、ドローン飛行を規制する主な法律についてみてきましたが、冒頭にも書いたとおり、実際に飛行させる場合は、飛行場所を管轄する地方公共団体が条例で規制している例が多く、条例の確認は必須です。
たとえば当事務所が所在する大阪市は、大阪市公園条例の「他人に危害を及ぼすおそれのある行為」をドローン飛行に適用することで、市内全ての公園でのドローン飛行を規制するとの方針を示しています。
また、上で述べたところは、あくまでも国や公共団体による規制に限った話であり、たとえば、他人の土地の上空をドローン飛行させた場合の土地の所有権侵害やプライバシー侵害といった、私人間の紛争はまた別の問題です。
そしてこちらの私人間紛争の問題こそ、未だ利用者が多くないため現在は顕在化していませんが(ドローンに限らず自動運転やAIなどの遠隔操作型及び自律型ロボットを対象とするロボット法全般について言えることですが)、いずれ大きな問題になることが明らかな分野です。
こちらはまた稿を改めて検討してみたいと思います。
弁護士 白井一成
update : 2018/03/01 | コラム冬季休業のお知らせ
誠に勝手ながら、平成29年12月29日(金)から平成30年1月4日(木)までを冬季休業日とさせていただきます。
期間中、ご不便をおかけしますが、何卒ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。
渡辺橋法律事務所 一同
update : 2017/12/20 | お知らせ試用期間としての有期雇用
従業員を採用する際、当初の数週間~数か月間を試用期間と定めることが一般的となっています。
試用期間とは、読んで字の如く「試しに用いる」期間を意味するので、会社としては、“試しに用いてみて適正がなかったら本採用しなければいいじゃないか”などと軽く考えがちです(そして実際、そのような考えで試用期間を導入している会社が非常に多いです。)が、本採用拒否はそんなに甘いものではありません。
現在の労働法令及び判例上は、労働契約締結後の試用期間は、あくまでも労働契約関係の下にあるから、試用期間後の会社からの一方的な本採用拒否は「解雇」に相当すると評価されます。
つまり、よほどの事情がないと本採用拒否はできません。面接の延長の感覚で“試しに用いてみて適正がなかったら…”という考えは通用しないのです。
とはいえ、数回の面接だけでは職場環境への順応性や業務の適正まで把握できるわけがない。
どうすればいいのか。
1つの有用な方法として、有期労働契約を用いるという方法があります。
たとえば3か月間だけ「試しに用いる」ことを考えた場合、従業員との間で、3か月間の有期労働契約を締結すれば良いのです。
有期労働契約であれば、契約期間が満了すれば契約は自動的に終了します。つまり、本採用拒否や解雇などという会社からのアクションを必要とせず、ほおっておけば労働契約が終了し(てしまい)ます。
したがって、契約期間満了後もその従業員を必要とするのであれば、従業員との間で新たに労働契約締結を締結する必要があります。
この制度をうまく用いることができれば、本採用拒否の違法性に関するリスクは減少するでしょう。
ただし、試用期間として有期労働契約を用いる場合は、次の最高裁判例に注意が必要です。
「使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である」
(最高裁第三小法廷平成2年6月5日判決)
つまり、試用期間として有期労働契約を用いる場合は、有期労働契約を締結する際の契約書に、契約期間の満了をもって当該労働契約は当然に終了するということを明記しておく必要があります(「当然に終了する」とは、会社・従業員どちら側からのアクションも必要なく、という意味です。)。さらに、期間満了後の採用の際には、きちんと新たに契約書を作成するなどして、試用期間としての有期労働契約と採用後の労働契約との一体性を断つ必要があるでしょう。
これらを行わない場合は、形式上は有期労働契約であっても、労働契約締結後の試用期間と評価され、期間満了後も労働契約は存続するものという前提で本採用拒否は「解雇」と評価される可能性があります。
試用期間として有期労働契約を用いるというやり方は、ハローワークのトライアル雇用制度などに応用されています。
有期労働契約を締結する際の契約書の記載内容に工夫が必要であるなど、いくつか気を付けるべき点があるため、専門家のアドバイスを受けながら行う方が良いですが、これをうまく使いこなすことができれば、試用期間として非常に有用な方法だと思います。
弁護士 白井一成
update : 2017/10/03 | コラムコスプレと著作権
好きなキャラクターのコスプレ衣装(本文では、純粋な衣服だけでなくウイッグや小道具なども含めて「衣装」とします。)を製作し、衣装を纏った姿を撮影して写真をインターネットにアップロードする。
この一連の行為には、著作権法違反の可能性が潜んでいます。
すなわち、コスプレ衣装の製作行為が「複製」(著作権法21条)や「翻案」(著作権法27条)に該当する可能性があり、また、写真をインターネット上で公開する行為が「公衆送信」(著作権法23条)に該当する可能性があります。
(なお、模倣のレベルが元のキャラクターの特徴を感得できない程度に低ければ、「複製」にも「翻案」にも該当しません。しかし、通常、キャラクターのコスプレとは、元のキャラクターを想起させることに意味があるものと考えられますので、上記のような場合は想定しないこととします。)
この問題のポイントは、対象となるキャラクターの(衣装を含む)デザインが「著作物」といえるかというところです。
それが「著作物」といえなければ、いくら真似しようがアップロードしようが、著作権法上は何の問題もありません。
著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものをいいます。
つまり、著作物というためには創作性が必要になります。誰でも考えつくようなありふれた表現は、「創作的」ではないため、著作物性が認められません。
したがって、たとえば、コスプレの対象となる元のキャラクターが、“白シャツ+黒パンツ”や“定型的な無地のスーツ”といったありふれた格好で、髪型その他の部分にも特筆すべき特徴がないような場合、当該キャラクターデザインは「創作的」といえず、「著作物」といえない可能性があります(東京地判平成20年7月4日判決、いわゆる博士事件)。
逆に、衣装も含めたキャラクターデザインに(一部でも)創作性が認められるのであれば、そのキャラクターのコスプレ衣装の製作は、著作物の「複製」又は「翻案」に該当します。また同衣装の写真をインターネットで公開する行為は「公衆送信」に該当します。
よって、これらの行為を著作権者に無断で行う場合は、著作権法違反となる可能性があります。
※ なお、コスプレ衣装について、衣服等は応用美術(実用品)であるから意匠法で保護されるべきものであり、
著作権法上の問題にならない(著作物性が認められない)と論じる方がいらっしゃいます。
しかし、コスプレ衣装は、何ら実用性のない“キャラクターデザイン”の模倣が問題となるもので、実用品である
“衣服”の模倣が問題となる応用美術の問題とは本質的に異なるため、この論は適切でないと考えます。
もっとも、上記のような場合であっても、著作権法30条以下の制限規定に該当すれば、著作権法違反になりません。
代表的なものが、私的使用のための複製(著作権法30条)です。
すなわち、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするとき」は、原則としてコスプレ衣装の製作も認められます。
ただし、「家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」は比較的狭く解釈されており、公衆が閲覧できるようなイベントでの使用やインターネットでの公開を目的とする場合はこれに含まれませんので、注意が必要です。
世間一般に、コスプレはグレーゾーンなどと言われているようですが、実際、法的なグレーゾーンなど存在するはずがなく、ただ、著作権者が当該著作権法違反の事実を認識していないか、又は、認識しながらも広告効果や文化振興などの理由で黙認しているにすぎません。
クールジャパンやポップカルチャーなどのブームに乗って、コスプレを営利目的で利用することが増えてきています。このような営利目的の場合にまで著作権者が黙認するとは限らず、いつ著作権者から著作権侵害の警告書が送られてくるかわかりません。すくなくとも営利目的でコスプレを利用する場合は、必ず、事前に著作権法違反の有無をチェックし、必要なものについては権利関係の処理をしておくべきです。
弁護士 白井一成
update : 2017/08/31 | コラム夏季休業のお知らせ
誠に勝手ながら、平成29年8月14日(月)から8月16日(水)までを夏季休業日とさせていただきます。
期間中、ご不便をおかけしますが、何卒ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。
渡辺橋法律事務所 一同
update : 2017/07/25 | お知らせ